お休みの日のお休み

喫茶店に行くことを楽しみにして、一週間を過ごしている。
この前の週末は日曜日が雨予報だったので、土曜日の午前中におつかいの用事を済ませた。
妻と子を連れてショッピングセンターへ行き、オムツと離乳食、肌着や特売の野菜を軽自動車に積んで帰ってきた。
時間はまだ14時前だった。
妻に「オートバイに乗ってきても良いかな」と聞き、「ゆっくり乗っておいで」と返事をもらう。
すぐ近くの喫茶店に行って、3時間くらいで帰ってくることを伝え、スイングトップに袖を通す頃にはワクワクしていた。
10月も半ばを過ぎ、住む町には金木犀の甘い香りが漂い、オートバイに乗るには最適の陽気だと感じる。
ここ数年、こんな日は年に数日しかない事を知っている。
悲しいけど、日本は暑い日と寒い日で季節を構成するように決めたようだった。
車庫から650ccを引っ張り出しながら、やけにその重さを体感する。
200kgってこんなに重かったかな、と思いつつタイヤのそばにかがみ込むと、空気圧が少なそうだった。
物置から空気入れを出そうかと考えたけれど、早く乗りたいという気持ちが勝った。
この時間なら家の前でエンジンをかけてもそう顰蹙は買わないだろう。
空キックをして、土踏まずに上死点を感じたところでチョークを引き、踏み込むとエンジンは容易に目覚めた。
始動と同時に高い回転数で回るエンジン。
その轟音に少しびっくりしたのは妻も同じだったようで、窓から顔を出してオートバイを見つめていた。
回転数が落ち着いたところで一速に入れ、アクセルを煽り気味に発進する。
エンジンが暖まっていない時は、そうでもしないとストールしてしまうのだ。
大きな国道ではなく、旧道を走って目的地を目指す。
家を出てから30分で喫茶店に着いたものの、臨時休業だった。
肩を落としつつ、道路脇の自動販売機で缶の冷たいコーヒーを買った。
ガードレールに腰掛けながら、それを飲む。
人気がない事を確かめて、ポケットから電車たばこを取り出すと、電池が切れている。
悲しい気持ちが少し大きくなることを実感しつつ、「都合により休ませていただきます」と書かれた張り紙の写真を妻に送り、来た道を帰ることにした。
遠回りしようかと思い、頭の中で道を思い浮かべるけれど、「こういう日はとっとと家に帰ってしまう方がいい」という結論に辿り着く。
家に帰る道中、「こんなに乗り辛かったかな」と何度も考える。
その答えはやはり空気圧だった。
物置から空気入れを出して、オートバイに空気をいれると、フロントタイヤは1.2キロ、リアタイアも同じくらいに減っていた。
反省しつつカバーをかけて、その日は終わりにした。
また次の一週間、喫茶店に行く事を楽しみに過ごそうと思った。