〈草ヒロ〉放置されたCB750(K2)とCB400F
大学で写真部に入っていた頃だから、今から15年ほど前になるだろうか。
当時はどこへ行くにも毎日カメラを下げて歩いていた。
そんな時、CB750とCB400Fの草ヒロに出会った。
場所は東京都豊島区の某所にある団地の駐輪場。
オイルタンクやシートの形状、大きめなテールランプから察するにCB750のK2あたりだと想像するけれど、詳しくないため確信はない。
全体的にサビが浮き埃にまみれていたが、変な改造はなされていないようだった。
オイルタンクには古いAppleコンピュータのステッカーが貼られている。
その隣にはCB400Fらしき単車も放置されていた。
CB400Fの方はウインカーやポイントカバー、タンクの装飾などに持ち主の「イタズラ」の跡が見える。
盗まれたのか外したままなのか、マフラーは着いていない。
2台とももうずいぶん長いこと乗られていないようだった。
ママチャリに囲まれたK2とヨンフォアの"二人"は、打ち捨てられたオートバイ独特の寂しさを漂わせていた。
唯一の救いと言えば、隣り合って話せる同じ「本田」という苗字の相手がいることくらいだろうか。
来る日も来る日も何も起こらず、とっくに話題も尽きていると思うけれど。
2台をしげしげと眺め、写真を撮っているとお婆さんから声をかけられた。
「それあなたの? 邪魔だからどかしてほしいんだけど」といったような事を言われた記憶がある。
僕は「いえ、僕のではないです。古いオートバイが好きで」みたいな返事をした。
婆さんは「持っていってもいいのよ。ずっと置いてあるんだから」なんて言って、その後の会話の内容は覚えていないけれど、立ち話をした気がする。
2台のCB、持ち主は同一人物なのだろうか。
はたまた盗難された物がここに放置されているだけということもある。
様々な想像はその域を出ることはなく、その後数年経ってもこの時のことを思い出す。
今も二人はあの場所で、あの時のまま主人の帰りを待っているのだろうか。
旧車の価格が高騰している昨今では、放置車の様な状態であっても価値があるのだろう。
そんなことに気づいた誰かが、止まっていた二人のCBの時間を動かしたかもしれない。
「欲しくてたまらない」が「もう要らない」に変わる。
その移行は故障や事故などのはっきりと意識できる瞬間がある場合と、時間と共に興味関心を無くして、境目がはっきりしないものの二つがあるだろう。
このCBたちだって、そんな「欲しくてたまらない」と思われていた瞬間があったはずだ。
10代、あの頃の自分と同じ様に、手に入れる事、走る事を夢にまで見ただろう。
オートバイには、そんな魅力があると思う。
しかし、そんな心の時期もいつかは過ぎていく。
僕が見たのは、放置された「夢」。
かっこいいのか悪いのか分からない事を書いてみる。