W1SAの故障とトラブル〜東北道編〜

乗っていても壊れ、乗っていなくても壊れる。

世の旧車と呼ばれる乗り物は大抵こんな感じだろうが、カワサキのW1は特にひどい部類に入るのではないかと思う。

「文句」が「主張」に置き換わった昨今では、こんな乗り物を販売していたら毎日が苦情の連続だろう。

まあ、販売当初はこんなにも壊れなかったのだろうか。

その原因が振動なのか構造そのものにあるのかはっきりとはわからない。

けれど、ここでは愛を込めてW1の故障・トラブルについて書こう。

過ぎてしまえば全ては笑い話。それでも降りない僕。

根比べに近い付き合い方。


数年前、東北自動車道でエンジンが止まった。

針がグラグラ踊って当てにならないメーター読み90km/hくらいで走っていたと思う。

降りようと思っていた佐野藤岡ICまであと数キロという地点。

家を出てまだ数十キロくらいか? 

「また壊れたんかよ」と思いながら、マシンに惰力があるうちに車をやり過ごすして路側帯に寄せた。

高速道路の管理者へ連絡。なるべく端っこにいてくれとの指示。

JAFにも電話をかけて居場所を伝えるもの、到着まではだいぶ掛かりそうとのこと。

次のICまで押すか……と考えたが200kgをあと数キロも押したら、救急車も必要になりそうだと諦める。

巨摩郡に聞かれたら笑われそうだけど。

さて、W1SAの外観に異常が無いことを確認し、今起こったことを思い出してみる。

失火したような感じで、焼き付きなどの恐らくエンジンそのものに異常が発生したわけでは無さそうだと、素人ながら予想する(危険)。

ガソリンタンクを覗き込んで、十分な残量があることを確認。

オイルレベルゲージを見て、オイル切れでないことも確認。

「ネンオシャ」「ネンオシャ」とまじないを唱えながら右往左往する情けない姿。

一通り確認した後、とにかくこの場所から離脱しようとキック始動を試みるもエンジンは掛からない。

とすればヒューズが飛んだか……。インジケータは光らないし。どこか断線してるとしたらかなりやっかいだなぁ。

車体の左側に腰を下ろし、サイドカバーを外そうとしたら「バンッ‼︎バチバチ‼︎」というデカい音と共に煙が上がった。

呆気にとられながらも再度同じ動作をする前に思いとどまる。

バッテリーかあるいはその近くの線がどこかに触れてリークしてるようだ。

W1SAが高速で発する気味悪い振動でターミナルのナットが緩んだのかも?

この時ほど鉄製のサイドカバーを恨めしく思ったことはない。

バッテリー周辺をチェックする、そしてヒューズを換えようにもサイドカバーを外さなければならない。

感電、引火、爆発……危険である。

「これはヤバいですな」諦めてロードサービスを待つことにした。

10月の気持ち良い青空が広がっていて、その青さがきれいなほど悔しい気持ちになる。

「今頃ほんとは……」なんて。

W1を載せた積載車が上りレーンに入って行った。

おいてけぼりの僕はインターチェンジの詰所から近くのタクシー会社へ電話をかけて迎車を呼んだ。

タクシーのオッチャンに同情された。

東京までの道中、話すことが無さすぎて漫画雑誌の話題。

オッチャンは週に1冊、なるべく分厚くて安い漫画雑誌を買うそうだ。

それを休憩中や待ち時間にゆっくり何度も読み、自分の時間を過ごすのだという。

大事だよなぁ、そういう時間。

栃木ナンバーをぶら下げたタクシーが首都高を危なっかしく走る。

オッチャンは緊張している。

「この車線でいいんでしたっけ?」

「大丈夫ですよ」

「ここの車線を走っていればいいですか?」

「入れる時に左へ入っちゃいましょう」

こんな心のこもった会話のキャッチボールをしながら、とても申し訳なく思った。

自宅近くのオートバイ屋に運んでもらうとそこの主人に「どうしてW1で栃木まで行こうとしたの? 行くなら埼玉くらいまでにしておきなよ」と笑った。

主人はカワサキ社の暖簾の下で何十年も店をやっている人だ。もちろん、W1およびそのポンコツ具合についてもよく知っている。

「タハハ。てなわけで、修理よろしくです」

もうW1を見たくもない気持ちになっていた。

帰り道、大通りを行き交う車の群れを横目で見ながら思った。タクシーのオッチャンは無事に帰れただろうか。

オートバイはポンコツ。

乗り手もポンコツ。

自分の現在地がなんだかよく分かったような日だったな。

そして、W1に早くよくなってくれと思った。

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