ラストダンスは私に
まあ誰が読んでるわけでもなし、脳の老化防止に向けて今日も書く。
「とにかく速いやつ」
「とにかく安いやつ」
「とにかく格好いいやつ」
オートバイを選ぶ基準は人それぞれだと思う。多様性。文句なし。
その中でもさらに
「遠出ができるやつ」
「自慢できるやつ」
「燃費がいいやつ」
なんていう風に好みを掛け合わせて、乗りたいマシンを決めていくように思う。
それで言うと僕は「音がいいやつ」というのが好きだ。
で、乗っているのがカワサキW1SA。
なんというか、好きな異性と同じようなものかもしれない。
と考えるとW1なんてのはいわば「カラオケスナックのババア」みたいなもん。
もちろん美声じゃない。
んで、越路吹雪なんかを歌ったりしてね。
タバコと酒焼けで喉はガラガラ、でもその歌声になんだか底知れぬ苦労みたいなモンがあって「昨日今日じゃ出せない」貫禄的な雰囲気がある気がする。
もはやフェチの世界。
ほとんど誰にも理解されないけれど、それで持ち主は満足している。
「いい音」と本人は満足しているかもしれないが、基本的に排気音なんてすべて騒音であって、それ以外のなにものでもない。
それに、W1SAは決して扱いやすい単車じゃない。
昨日と今日じゃ調子が違うし、いつだってブレーキも眠たい。
気持ち良く加速したかと思えばその先の信号待ちで息も絶え絶えにアイドリングしたりして。
それに懲りてきっちりメンテナンスした「つもり」でも走れば止まり、もういいやと投げやりな気持ちで乗りっぱなしにしてると快調だったり。
もう訳がわからん乗りモン。
10年くらい前、伊豆からの帰り道。
東名高速道路を走っていたらフレームが折れた。
タンデムステップが取り付けられている位置で、マフラーを吊っている箇所。
3年前には東北自動車道の下りでエンジンが止まった。
バッテリー付近のハーネス丸焦げ。自宅近くまでレッカー。
そんな風にして挙げたらキリが無いほど壊れる。
その度に整備不足だと自責の念に苛まれるが、それすらも果てがないようなほど。
だからそうなると時々、蹴っ飛ばしてそこに置いて帰ろうかと思う時もある。
だから、マトモな単車に乗り換えようかと考えてネットオークションを眺めたり。
でもなんだか、車庫に佇むW1がいじけているように思えてくる。
仕方なく「尻でも撫でてやるか……」という気持ちで、工具箱をひっくり返す。
きっと、僕はずっとこれに乗っているだろう。
高速のレーンをくぐり、加速するときに呟く。
「さて、がんばろうぜ。ポンコツ」
返事をするようにババアの歌声が聴こえる。
いつでも私がここにいることだけ どうぞ忘れないでね