ニセモノの言い分

一年なんて本当にあっという間だ。

何年か前の冬休み、やることもなかったからW1SAで走りに出掛けた。

特に行き先も決めてなかったけれど、走っている途中でお茶でも飲もうかと思いコメダ珈琲的な店に行った。

ちょうど昼時だったからなのか今ではよく憶えていないけれど、店は混んでいて順番待ちの列が外まで続いている。

僕と同じように暇を持て余した人たち。仲間。有閑倶楽部。いいね。

仕方ないよなあ。どこの店も正月休みで、行き場といったらこういうトコしかない。

順番待ちの票に名前を書く。でも呼ばれるのはだいぶ先のように思えたから、外の灰皿で煙草を吸うことにした。

バイク置き場に置いてある自分のオートバイに目をやると、ヘルメットを抱えた中年のオジサンが僕のW1を見ている。

その背中にはデカデカと「SIMPSON」と書かれたライディングジャケット(確か)。

その後、キョロキョロとあたりを見回して僕と目が合うと、こちらに向かって歩いてくる。

なんだか面倒臭いことになりそうだという予感はすぐに当たってしまった。

オジサンは開口一番「あれは君のバイク?」と聞く。

「さうですけど」僕は答えると

「なんでホンモノに乗らないの?」と言われた。

例のごとく「いやあ、懐かしいバイクに乗ってますねえ」なんて言われるのではないかと思っていたから吃驚。

オジサンの言っている意味がよく分からないから「はぁ」とこれまたよく分からない返事をした。

続けて彼は「カワサキのWはトライアンフのコピーだって知ってる?」と、僕の周りに漂うたばこの煙を手で払いながら言う。

その腹立つ仕草をいまだに憶えている。根に持つタイプなんですハイ。

「そうなんですか。知りませんでした(BSAのコピーだと思ってました)」

「そうか。若いから知らないのは仕方ないけど。この前、クラブのバイク仲間がね、Wからボンネビルに乗り換えたよ。周りがドゥカティやBMWで恥ずかしくなったんだろうね」

「はあ…そうですか」

「まあいいや、僕はもう飲み終わって帰るところだからゆっくり話せないけど、もっとバイクをわかってる人たちと、ね、コミュニケーションとった方がいいよ」

僕が返事をしなかったからか、オジサンは自分のバイクまで戻って行った。

こちらを意識しながらBMWのデカいオフ車みたいなヤツに跨ると、持っていたヘルメットを地面に落とした。

それを拾おうと降りかけたところで、サイドスタンドが掛かっていないことに焦りグラグラ。

「あぁ……ホンモノなんだなァ」と思いながら眺めていると、オジサンはエンジンをかけて街道へ出て行った。

店内に行き、順番待ちの票を見る。

まだまだ順番は回ってきそうもなかったから、自分の名前に取り消し線を引き、コンビニに行ってマシンのコーヒーを飲むことにした。

寒空の下でコーヒーを飲みながら、新年早々ホンモノに出会えた! とひとり感激。

やはり他にやることもなく、トライアンフのコピーに乗って家に帰った。

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