W1SAと伊豆通いの思い出

W1SAで伊豆に通っていた時のこと。

通うといっても仕事や用事があってということではなく、ただ単にしょっちゅうツーリングに出掛けていたという話。

確か2013年〜2014年くらいのことなのだけれど、もうだいぶ昔のことのようにも思える。

その頃僕は25歳、小さな出版社に勤務していて、当時はまだ結婚もしていなければ、住宅ローンも抱えていない。

いつも仕事で疲れてはいたけれど、実家暮らしで気ままといえば気ままな日々でもあった。

あらかじめ断っておくと、ここでは伊豆おすすめツーリングコースを示すわけでもなければ、グルメや観光の情報もない。

ただ単に「こんなW1SAとこんな付き合い方をした」というだけの話。

地図を眺めて旅支度

週末が近づくと天気のことが気になり、晴れだと分かると伊豆半島の地図を眺めては、昼休みを過ごした。

何かの本に書いてあったが、旅の支度をしている時から旅は始まっているというやつだろうか。

金曜の仕事を片付けながら、気分はもう伊豆である。

余談だが、伊豆半島の地図は『山と高原地図 伊豆 天城山』が僕のお気に入りだ。

一般的な道路地図のようにページを跨ぐ事がなく、1枚の大きな地図になっていることがその理由。

(ただその代わりにコンビニの位置や交差点の名称なんかは詳細に記されていない。)

登山で使えるの紙材で出来ているから水気や折れにも強い。

僕はこの地図を何枚もコピーして、丁寧に折りたたむとシャツの胸ポケットに入れ、伊豆に行くたびに持って行った。

ツーリングから帰ってくると走った道をマーカーでなぞり、地図の脇に「給油回数・燃費」「景色のこと」「緩んだボルトのこと」「食べたもの」など、その時の記録を、なんとなく書いた。

また、フイルムカメラ(キヤノンのFXもしくはマミヤのセコール/35mm)で撮った写真と一緒に、アルバムにしまっていた。

各部の増し締めを行ってから振り分けバッグに工具と雨具を仕舞い、風呂用のタオルなんかも納める。

軍放出品のリュックサックには替えの電球やヒューズ、上着、歯ブラシ、サンダルなどを入れて、準備は万端。

AM3:00 自宅を出る

ツーリングの行程はだいたい決まっていて、金曜日の深夜とも土曜日の早朝とも言えない時間に家を出発し、翌日の夕方には帰ってくる。

この時間を使うことで渋滞が避けられることを父から教えてもらった。

道のりは環状8号線→国道246号→国道1号→県道134号……といった具合に、宇佐美や熱海側から伊豆半島に南下することが多かった。

箱根を通るルートも使ったが、山の上は気温の低下が激しいので、上着を余分に持っていかなければならない。

それに、夜の山を超えると緊張感からの解放からか、その後に強烈な眠気がやってくるのが苦手だった。

AM8:00 松崎町

下田まで海沿いを走り、そこから山に入っていく。のんびり走って、松崎町に着くのが午前8〜9時頃。

今はなき町営の共同浴場(松崎町)

大沢温泉あたりの小さな河原か、松崎港の防波堤に座ってブーツを脱ぐ。

手の指先から足の指先まで、全身にまとわりつく振動の後味を感じながら、町営の共同浴場が開くのを待つ。

1番風呂に入ると、強張っていた身体がほぐれていくのが分かる。こんな感触を知るために走ってきたような気もする。

利用者は大抵1人か2人くらいしかいない。

よく日焼けした地元のおじちゃんを横目に、脚の裏をよく揉んで、首と肩を離すように伸ばし、ゆっくりする。そんなひと時。

風呂を上がると脱衣所の洗面台を借りて歯磨きをする。なんだかこれがリフレッシュになる。

そして畳が敷かれた休憩室に行く。

「バイクで?東京から?あそう。横んなってゆっくりして行きなあ」という受付のおばちゃんの言葉に甘え、座布団を重ねて枕にして一眠りする。

風呂は大体ここかあるいは大沢温泉にしている。

大沢温泉(画像は拝借したもの)

大沢温泉もおばちゃんが番頭をやっていて、同じく「休んでいきなあ」と言われるが、ずっと話しかけられるので眠ることが出来ない……という楽しいハプニングが幾度かあった。

AM11:00 昼食

起きたら昼飯を食べに行く。

場所は決まっていて、毎回同じ小さな食堂。

ずいぶん昔に地元の出光のおっちゃんから教えてもらった場所だ。

ここでも同じように昼飯を食べながら地図を眺め、帰路について考える。

町内でW1にガソリンを補給して、旅はもう折り返し。

PM12:00 知らない峠を一本走る

南伊豆から北上する際に、これまで通ったことのない峠を一本走るようにしている。

この方式も父から受け継いだもので、メインの県道を走るだけでは得られない伊豆の良さのようなものを体験することができる。

ただ、時たま地元民でも通らない舗装林道のような過酷なコースだったりするから面白い。

W1にはちょいとストレスがある道でも、楽しめないこともない。

東伊豆は道路が混むから、西伊豆に抜ける道を選ぶことが多かった。

当時はまだ伊豆縦貫道も完全なものではなかったから、県道17号に出て、海を真近に見ながら沼津ICを目指す。

PM4:00 帰宅

時にはこんな迷惑なことも

火が沈む前には自宅に帰ってきて、父の営む店でコーヒーを飲む。

地図を広げ、通った道のりをマーキングし、父にも感想を報告する。

伊豆の良さは海と山。

海抜0mから一気に山を登り、さまざまな景色を堪能できることだと思う。

「W1と伊豆、なんとも良い……」そんな気持ちに浸りながら、高速走行のはちゃめちゃな振動で緩んだボルトたちを締める。

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