冬のオートバイと上着-リアルマッコイズ N-1スペシャル
毎年、冬が近づくと考えることは、オートバイに乗る時の格好について。
たいして乗る機会がないのにもかかわらず、気持ちだけはオートバイ乗りでいたいのである。
まあ、スタンスとか精神とかそんな大袈裟なものではないのだけれど。
真冬はたいてい革ジャンの下にトレーナーや薄手のダウンを着てやり過ごすことが多い。
でもやっぱり寒い。
というより、こんなにもこもことした着方は、正しい革ジャンの扱いではないように思える。
レザーのフライトジャケットならサマになるだろうが、僕のはシングルの、いわゆる「ライダース」というものなのだ。
ライダースなんて呼び方は、実用よりファッション寄りな気がして、なんだかちょっと恥ずかしいけど。
とかなんとか、こんな理由をいちいちつけているのは、半分くらいしか本当ではない。
ほとんどは、「ちょっと高くて新しい服が欲しい」というただそれだけなのだ。
だから、この半分に「一生モノ」だとかいう囁きが足されると、悲しいかな「買わなければいけない」という思考回路が発明されてしまう。
というわけで、上着を新調した。
選ぶ基準は、「オートバイを降りても格好良いジャケット」である。
これもなんだか打算的な気もするけれど、用途が「バイク専用」では、いささか飛び降りられないくらいの高さがある清水寺(の舞台)なのだ。
仕事帰りに神宮の店に寄って物色し、袖を通す頃にはもう買う気になっていた。
アメリカ海兵が甲板の上で着ていたというジャケット。N-1と呼ばれるもの。
アルパカの裏地とウールの襟はとても暖かい。
リアルマッコイズのそれは無骨だけれども製品は作り込まれており、またその出立ち・シルエットは男心をくすぐるデザインだった(←素人の感想です)。
オートバイのウェアメーカーも同じような論法、例えば「街着でも使えるウェア」という風に売り出されているものがある。
もちろん、ベーシックなMA-1やこのN-1を模したものは、無数に存在する。そして、そのどれもが高機能だ。
けれど、やはり何かが違う。
どちらが良くてどちらかが悪いといった意味ではなく、生まれと育ちが違うそっくりさんのようなものなのだろうか。
今回、僕が買ったジャケットは、いわば「体育だけが得意なヤツ」。
一方のバイク用ウエアは「体育も数学もできる、でも話があんまり面白くないヤツ」。
ちょっと違う気もするけれど、こんな印象を持っている。
脱線してしまった。
サイズは取り寄せということで、その場で会計を済ませ、件のジャケットは店から自宅に送ってもらうことにした。
「毎日頑張っているんだから、それくらいいいんじゃない?」と言ってくれる妻に、本当の値段は告げられない。
僕はソイツがやってくる週末が待ち遠しかった。
「これを楽しみにまた仕事を頑張ろう」なんて、もう一つだけ、誰も聞いていない言い訳をしながら、買ってしまった僕だった。