「俺も昔、これに乗っていた」という話

僕は意地悪なんだろうか、と考えることがある。

サービスエリア、道の駅、コンビニ。

ダブワンを止めて一服していると、年配の人から話しかけられる事も多々ある。

そのほとんどが「懐かしいなあ、俺も昔乗っていたんだよ」というもの。

僕のマシンはカワサキのW1SAだ。けれど、「ダブサンですか?」と聞かれることが本当に多い。

タンクも足回りも改造しておらず、SAそのものなのに、だ。

恐らくだけど、このように話しかけてくる人のほとんどはダブワンに乗っていない。

あるいは、地元の先輩や父の友人が乗っていたんだろうと思ってしまう。

「これはダブサンより一つ前のモデルですね」なんて言葉を返しながら、休憩させてくれと考える自分がいる。

「懐かしいなあ」と言いながら車体のあちこちを触られるが、まあそんなことはどうでもよかったりする。

「音を聞かせてほしい」とも言われるけれど、一休みしたいのでやんわりかわしたりする。

ただ、「跨ってもいい?」と聞かれると即座に「駄目です」と言ってしまう自分。

跨ってどうするつもりなんだろう?

「高価だから」「宝物だから」といった理由ではない。

ただ単純に、自分のオートバイのシートの上というのは、自分の部屋みたいなものだから、というものがいちばん近い。

聖域というと大袈裟だけれど、他人の股間を擦り付けてほしくないのだ。

と思いながら、緩くなった缶コーヒーを飲み干し、くず箱に放り込んだりする。

引き返していく彼の背中は寂しそうに見えるが、エンジンをかけたところで振り返り、立ち止まっている。

発進し、追い抜きざま国道に出たところで、片手を挙げると、ミラーの中で返してくれる。

いいかいオッチャン、オートバイは股間で乗るものであって、口で乗るもんじゃないんだよ。

なんて考えながら、いつもよりワイドにアクセルを開けている自分がいる。

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