カッコいいオートバイ乗りでいたい

2015年頃の筆者

タバコをやめた。

やめたらやっぱり太ってしまった。

禁煙してから、絶えず何かを食べ続けていた。

仕事中、寝る前。普段ならタバコを吸っていたタイミングで、おやつもたべてしまう。

大好きなのはポテトチップスだ。これを発明した人を心の底(それも十二指腸あたり)から応援する。

そんな風にして食後はおやつの食前になり、その境目はどんどん合間になっていった。

そうして僕は5〜6kgも太ったのだ。短期間に、これほど太れるのはひとつの才能のような気がする。

はたまた、これほどまでに食欲を低下させるタバコというものがすごいのか。

この前、立て続けに二人の知人に会った。一人は大学時代の旧友で、もう一人は編集者時代の先輩。

二人とも、僕を見て「なんか大きくなってない?」と言った。

彼らは僕がヒョロヒョロガリガリだった頃、一緒にいたから特にそう思うのだろう。

僕に突きつけられた言葉は、それなりの切れ味でもって、先ほどポテチに感激していた心の底あたりを抉った。

家に帰り、風呂場の椅子に座って頭を洗う。前に屈むと腹の肉がつっかえる。

こんなこと、なかったよなあ。

「子供の誕生」は何かの言い訳になりやすい。例えば、僕は息子が残したものをよく食べる。

満腹のさらに上の状態を何度も経験し、さながらフードファイターの特訓みたいな状態になってしまう。

この前、妻が撮ってくれた写真がある。自宅の前で僕がW1SAにまたがって、両手でハンドルを握る写真。

全然変わらないのはオートバイだけで、そこには膨らんで垂れているオジさんが映っていた(はずかしいので掲載しない)。


僕は痩せることにした。

そして今は筋トレをしていて、もう4ヶ月くらいが経つ。

体重は全然変わらない。けれど、筋肉がついているような気はする。

寝つきも寝起きも良くなって、身体は軽く、見た目にも少し細くなったような気がして。

妻からも「痩せた」なんて言われると、ちょっとうれしかったり。

繰り返しになるけれど、20代の頃はガリガリだった。

30代になり、徐々に太っていって、気づけばBMIが25に近づいてしまった。

なぜ痩せようと思ったのかはよく分からない。

ただ、数年前まで着ていた革ジャンや履いていたジーパンがキツく感じて、革ジャンなら36のサイズが着られなくなった。

その時はなんだか「仕方ないか」というような気持ちだった。

それは、仕事に家事に子育てと、常にうっすら疲れていたし、時間がないと思ったから。

でもそれからなんとなく、鏡を見るたびに「これじゃあオートバイに乗った時のシルエットがカッコよくないだろうな」と思った。

顔も大きくなっていたし、なんだかこのまま「坂を下っていくこと」を、緩やかに許容していく自分が怖かった。

「なんとなくここまではOK」というラインをどんどんどんどん低く、手前にしていって、そのうち「最後はどうなってしまうんだろう」という恐怖だったのかも。

僕はもうすぐ37歳。あの時「オジサン」だと思っていたキリンの歳が近い。

"東名を浜松までノンストップで走り抜ける"ために、キリンはプールに通い、ジョギングをした。

途轍もなくくだらない目標のために自分を追い込むそのストイックな姿が、今はとてもカッコよく見える。

そう。そんな風にしてしょっちゅうネジを巻き直さなければ、ものすごい速さで僕は太り、体力的にも老いていく。

これが30代後半の男の姿。

そして僕は筋トレをはじめた。

ムキムキを目指しているというより、運動していて「辛い」と感じる時、自分と真正面から向き合っているような気がして、それが楽しいと感じる。

自宅でマットを敷く。YouTubeでトレーニングの動画を見て学んだ筋トレのメニューを真似てやってみる。

夜、子供を寝かしつけた後にそんなことをしている。

体重は変わらないけれど、検診の結果は良くなっていた。体脂肪が落ち始めていて僕は嬉しい。

僕は自宅の前でダブワンのエンジンを掛けない。

住宅街であんな音を撒き散らしていたら、流石に申し訳なくて。

なので、歩いて3分くらいの大通りまでダブワンを押すことになる。

これだけでもう息が上がって、ゼエゼエハアハア、情けない姿。

タバコを吸っていたから、息も上がりやすかった。

そんな自分を、見た目も中身も「こんなはずじゃなかった」と思っている。

頭の中にはスキニーパンツにエンジニアブーツを履いて、オートバイに乗っていた「あの頃の自分」がいる。

だから僕は、変わりたかったんだと思う。

いや違うか。正確に言うと変わりたくなかった(戻りたかった)んだろう。

なんだか乙女みたいだ。

せっかくなら、カッコいいライダーでいたいと思って。

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