5月でもオーバーヒート気味のW1SA

夏が嫌いだ。
なぜかって暑いから。
オートバイに乗る気になんてならない。
まったく、覇気も根気のないライダーである。
本当の(?)単車乗りなら、どんな気温だろうがマシンに跨がるのかな。
あるいは、避暑地を目指して走るんだろうか。
あゝ情けない。
なんにせよ、僕にとっては涼しい場所で冷たいものを飲むくらいしか楽しみのない半年間がやってきた。
まだ5月だってのに、通勤するだけで汗だくだ。
東京、この暑さが10月頭まで続くと考えると、さすがに気分が滅入る。
日本の夏ってこんなに暑くて長かったっけ。
まあ文句言ってたってしょうがないか。
近頃、80年代の曲を聴きながら通勤することが多い。
「夏」を歌った曲は多いが、どれもが昨今の夏の景色とは違う。
80sを代表する作家、片岡義男先生によれば「夏というのは心の状態」だという。
片岡小説の主人公を想像すると、ブルージーンズを履き、ヘインズの白シャツを着ているというのは、竹内力のせいだろうか。
よく焼けた肌とサングラスで過ごせたあの爽やかな夏はもう失われ、今や男とて日傘をささなければ生命の危機と隣り合わせだ。
数年前の5月、僕はW1SAに乗って環七の渋滞に絡まっていた。
葛飾に住むW1の部品屋さんからの帰り途。
気温は30度そこそこだったと思うが、風はなく、僕を取り囲んだ車が放つ熱気と照りつける日差し、そしてアスファルトの照り返しで強烈な暑さがあった。
リュックサックには38TのドリブンスプロケットとDIDの新品チェーン。その他にも消耗部品を買い込んで、背中は汗でびしょ濡れだった。
2速にも入らないような速度で進んでは止まり、Wのエンジンはもうもうと熱くなり、やがてアイドリングもおかしくなっていた。
いつもは心地よいビートを発する2つのピストンもヘンテコなリズムで喘いでいる。
心なしかガチャガチャといった、いつもとは違う音が聴こえる気もする。
さっきまで大橋純子を聴いていたと思ったら、もんたよしのりが歌ってたような気分。違うか。
早い話、オーバーヒートしかけていた。
1,000回転あたりで不安定に揺れるタコメーターの針と、それに合わせるように自分の気分も徐々に悪くなって行った。
車の列から外れ、自販機で冷たいコーヒーを買う。
知らない公園の脇にWを止め、タバコを吸いながらエンジンと自分を冷やす。
正直、夏には厳しいマシンだよなあ。
ゼファー400あたりのオイルクーラーをつけている先達もいるが、気持ちが分かる。
個人的な意見だが「Wの季節」があるとすれば、それは冬だと思う。
張り詰めた空気が漂う真冬の夜。閉まったシャッターが並んだ、狭い商店街を駆け抜けるような時は最高だ。
Wの排気音がビリビリと空間を震わせる。
軽やかに回るエンジンが、喜んでいるような感触を知る。
もちろん、夜中だからそんな馬鹿げたアクセルの開け方はしないが、なんて迷惑なやつなんだ。反省。
「夏というのは心の状態」かあ。