1965年にカワサキ「X650」が試作車として登場

W1のルーツ「カワサキX650」(東京モーターショー/1965年)

カワサキ「X650」とは、東京モーターショーに出品されたメグロスタミナK2型改造試作車のことであり、のちに「カワサキW1」として商品化されたものである。

外観はK2型に似ているがエンジン内部・細部は異なっており、タンクエンブレムはメグロの七宝焼きのものではなくカワサキの旗タイプのものが装備される。

車体構成はベースとなっているK2型とほとんど同様、エンジンはK2型のボアを8mm拡大したものだったとされている。車体部品が刷新されたのち、W1として商品化された。

ちなみに、1965年の東京モーターショーに出品されているのはホンダS800・N800、スバル1000などがある。

カワサキX650のエンジン

X650のエンジンは後のW1に搭載される「W1E型」のエンジン型式と同型とされている。

K2では66mmだったボア径を74mmへと8mm拡大。ストロークはK・K2型と同じく72.6mmであるため、排気量が128ccアップし624ccとなっている。

497ccのメグロK2型がロングストロークだったことに対し、オーバースクエアのエンジンへとキャラクターを変えたエンジンになっている。

詳細についてはW1の項で触れることにするが、X650(W1)のエンジンはK2型と多くの部品を共通にしており、その点数は382点にのぼるとされる。

カワサキX650の装備と性能

キャブレターはシングルのVMタイプで、口径など詳細については資料が無いもののおそらくW1と同じく31πのものが装着されていることが想定される。

公表されているものでは圧縮比が8:7:1で、46馬力を6,500回転、5.1kgのトルクを5,500回転で発揮。

ミッションはK2型と同じロータリー式の4速し、最高速は時速180kmとなっている。

タイヤもK2同様フロント3.25-18インチ、リア3.50-18インチ。タンク容量は15L。

中央に配置されたスピードメーターの左上にタコメーターが装備されている。

ペーパープロジェクトに終わっていた「メグロK3」の存在

メグロK2の後継機はカワサキW1であるが、W1というモデルは当初設定されておらず、本来は「メグロK3」として製作される計画があったという。

この計画はおそらく前述した「X650」の発表前後、1965年頃の話である。ただ「メグロK3」はペーパープロジェクトで終わることとなり日の目を浴びることはなかった。

しかし、2020年11月17日に突如としてカワサキより「メグロK3」の発売がアナウンスされ、発売が決定する。

エンジンおよび車体構成はカワサキW800と共通で、外装がメグロK2をモチーフにしたものになっている。

また、2019年1月にはカワサキが「メグロ」「MEGURO」「MW(メグロワークス)」などの商標登録に乗り出していたことや、同年のモーターショーのブースにメグロK2を展示するなど「新しいメグロがカワサキから出るのでは?」と少し話題になっていたようだ。その時の様子を以下引用してみる。

審決

不服2020-2760

(省略)

請求人川崎重工業株式会社

(省略)

代理人弁理士特許業務法人有古特許事務所

商願2019-4328拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

第1本願商標及び手続の経緯

本願商標は、「MEGURO」の文字を標準文字で表してなり、第12類「二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品」を指定商品として、平成31年1月10日に登録出願、その後、本願商標の指定商品については、当審における令和2年2月28日受付の手続補正書により、「二輪自動車並びにそれらの部品及び附属品」に補正されたものである。

なお、本願は、令和元年7月4日付けで拒絶理由の通知がされ、同年8月8日受付の意見書が提出されたが、同年11月28日付けで拒絶査定がされたものである。

これに対して令和2年2月28日に拒絶査定を不服とする審判の請求がされたものである。

第2原査定の拒絶の理由の要点

原査定は、要旨以下の1及び2のとおりの認定、判断をし、本願を拒絶したものである。

1本願商標は、「MEGURO」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は、東京都23区の一つである「目黒」を欧文字で表記したものであるから、「東京都目黒区において生産・販売される商品」程の意味合いを容易に理解・認識させる。

そうすると、本願商標をその指定商品中「東京都目黒区において生産・販売される商品」に使用しても、単に商品の産地、販売地(品質)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標で2あって、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない。

したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記に照応する商品以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、同法第4条第1項第16号に該当する。

2本願商標は、「MEGURO」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は、ありふれた氏の一つと認められる「目黒」を欧文字で表記したものであるから、これをその指定商品に使用しても、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない。

したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第4号に該当する。

第3当審における証拠調べ通知

当審において、本願商標が商標法第3条第1項第4号に該当するか否かについて、職権による証拠調べをした結果、別掲1の事実を発見したので、同法第56条第1項で準用する特許法第150条第5項の規定に基づき、その結果を請求人に通知し(令和2年8月21日付け証拠調べ通知書)、相当の期間を指定して意見を述べる機会を与えた。

第4証拠調べ通知に対する請求人の意見

請求人は、上記第3の証拠調べ通知に対して、令和2年10月7日受付の意見書及び同3年1月29日受付の意見書において、要旨以下のとおり意見を述べた。

1商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号該当性について上記第3の証拠調べ通知では、本願の商標法第3条第1項第4号該当性のみについて言及されていることから、本願商標「MEGURO」は商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するものではないと判断していると思料する。

2商標法第3条第1項第4号について「二輪自動車」が取引される業界において、「MEGURO(メグロ)」は、戦前から戦後にかけて日本の二輪自動車業界をけん引してきた目黒製作所及びその二輪自動車を指す語として認識されてきたものであり、現在では、目黒製作所の二輪自動車の流れをくむ本願商標が使用される商品「二輪自動車」の発表により、請求人の業務に係る商品を指すものとも認知されるようになっている。このような本願商標の指定商品に係る業界に係る個別の事情を踏まえると、本願商標「MEGURO」はありふれた人の氏姓を一義的に理解させるものではないことは明らかである。したがって、本願商標「MEGURO」は商標法第3条第1項第4号に該当するものではない。

第5当審の判断

1商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号について本願商標は、「MEGURO」の文字を標準文字で表してなるところ、「MEGURO」の文字が、東京都23区の一つである「目黒」を欧文字で表記したものであると理解させる場合があるとしても、当該文字が、商品の生産地や販売地を直接的に表示したものとして直ちに認識、理解されるとはいい難いものである。また、当審において調査するも、「MEGURO」の文字が、本願商標の指定商品の生産地や販売地を表示するものとして、一般に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を商品の生産地又は販売地等を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。そうすると、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の生産地や販売地等を表示するものとはいえないことから、自他商品の識別機能を果たし得るものというべきであって、本願商標は、商品の生産地や販売地等を表示するものでないことから、本願商標は、商品の品質の誤認を生ずるおそれもないものである。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号には該当しない。

2商標法第3条第1項第4号について

本願商標は、「MEGURO」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成態様から、「メグロ」の称呼を生じることは明らかであり、「メグロ」の読みを漢字で表した「目黒」の語は、証拠調べ通知書で示した別掲1のとおりの書籍情報やインターネット情報によれば、日本人の姓氏を表示するものであることが認められ、その「目黒」姓の者が相当数、存在することも認められる。また、日本人の姓氏を表記する際に、その読みを欧文字で表記することが、広く一般に行われていることも明らかである。そして、本願商標は、標準文字で表してなるものであるから、特異な態様からなるものではない。以上からすると、本願商標は、ありふれた氏である「目黒」を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というのが相当である。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第4号に該当する。

3請求人の主張について

(1)請求人は、「本願商標『MEGURO』は、戦前から戦後にかけて我が国を代表する二輪自動車メーカーであった目黒製作所の二輪自動車のブランドにその淵源があり、同製作所の二輪自動車のコンセプトとブランドは、同製作所の事業を承継した請求人が引き継いで現在に至るものであり、『MEGURO』が前回の東京オリンピックの聖火リレーの先導車を務めた二輪自動車のブランドであること、請求人が現在販売している『W800STREET』及び『W800CAFE』の元祖ともいえる二輪自動車が『MEGURO』の名を冠したものであること、これらの事実が雑誌やインターネットで広く紹介されていることを考慮すれば、二輪自動車の需要者間及び取引者間において、本願商標『MEGURO』は、現在においても請求人の業務に係る二輪自動車の商標として一定の認知を得ていることは明らかである。」旨主張する。しかしながら、請求人も主張するとおり、1923年に設立された目黒製作所が製造した二輪自動車は、戦前から戦後にかけて話題となっていたとしても、目黒製作所が製造した二輪自動車に使用した商標は、別掲2のとおり、赤色で書され、ややデザイン化された「メグロ」の片仮名(以下「メグロマーク」という。)、あるいは、肉太の「MEGURO」の文字が記載されたエンブレム(以下「エンブレム」という。)であり、本願商標とは明らかにその態様等が相違する。また、目黒製作所が製造した二輪自動車が、本願商標の登録出願時に、実際に取引されていたこと、販売されていた場合は、その販売数量、広告宣伝の事実等は、何ら確認することができない。さらに、請求人が提出した証拠によると、請求人が「MEGUROK3」と称する二輪自動車は、2021年2月に発売が開始された製品(甲41)であり、二輪自動車に関する各種イベント等で、当該商品の宣伝や告知を行っていることはうかがい知れるものの、広く需要者に向けたTVによるCM等、広く需要者に向けた宣伝が行われていることは確認できず、また、当該商品の販売数量や市場シェアも明らかではない。加えて、「MEGUROK3」と称する商品に使用される商標は、甲第34号証等によると、エンブレム(別掲3)やメグロマークであって、明らかに本願商標とは相違する。そうすると、二輪自動車の需要者及び取引者において、本願商標「MEGURO」は、現在において、請求人の業務に係る二輪自動車の商標として一定の認知を得ているとは認めることができない。

(2)請求人は、「『二輪自動車』が取引される業界において、『MEGURO(メグロ)』は、戦前から戦後にかけて日本の二輪自動車業界をけん引してきた目黒製作所及びその二輪自動車を指す語として認識されてきたものであり、現在では、目黒製作所の二輪自動車の流れをくむ本件商品の発表により、請求人の業務に係る商品を指すものとも認知されるようになっている。このような本願商標の指定商品に係る業界に係る個別の事情を踏まえると、本願商標はありふれた人の氏姓を一義的に理解させるものではないことは明らかである。」旨主張する。しかしながら、上記(1)のとおり、本願商標「MEGURO」は、現在5においても、請求人の業務に係る二輪自動車の商標として一定の認知を得ているとは認めることができない。また、上記2のとおり、本願商標は、ありふれた氏である「目黒」を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というのが相当である。(3)したがって、請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。

4結論

以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当しないとしても、同法第3条第1項第4号に該当し、登録することができない。

よって、結論のとおり審決する。

令和3年8月19日

審判長

特許庁審判官 榎本 政実

特許庁審判官 豊田 純一

特許庁審判官 荻野 瑞樹

別掲1(証拠調べ通知書で提示した証拠)我が国において,「目黒」がありふれた姓氏の一つであること)

(1)書籍情報

ア「苗字辞典」(株式会社湘南社)の265ページの「順位」,「苗字」及び「推定人口」の欄に,それぞれ「779」,「目黒」及び「25,000」の記載がある。

イ「全国名字大辞典」(株式会社東京堂出版)の701ページの「目黒【めぐろ】」の項に,「全国=700位台」の記載がある。

ウ「日本人の姓」(六藝書房)の174ページの「順位」,「名字」及び「人数」の欄に,それぞれ「519」,「目黒」及び「約三万五千」の記載がある。

エ「NTT東日本株式会社」発行の「50音別個人名ハローページ東京都23区全区版下」(2005.3~2006.2)に,「目黒」の姓が多数(316名)掲載されている。

(2)インターネット情報

ア「姓名分布&姓名ランキング写録宝夢巣/名前・苗字・名字」のウェブサイトにおいて,「検索条件姓:目黒」の見出しの下,「地域」,「順位」及び「件数」の欄に,それぞれ「全国」,「756」及び「4,828」の記載がある。(https://www2.nipponsoft.co.jp/bldoko/index.asp)

イ「同姓同名辞典(同姓同名検索・苗字ランキング・名前ランキング)6」のウェブサイトにおいて,「全国苗字ランキング(701位~800位)」の見出しの下,「順位」,「苗字」及び「件数」の欄に,それぞれ「774」,「目黒」及び「5810」の記載がある。(http://www.douseidoumei.net/00/sei08.html)

ウ「名字由来net」のウェブサイトにおいて,「目黒さん都道府県ランキング」の見出しの下,「全国順位」及び「全国人数」の欄に,それぞれ「780位」及び「およそ24,900人」の記載がある。(https://myoji-yurai.net/myojiPrefectureRanking.htm?myojiKanji=%E7%9B%AE%E9%BB%92)エ「全国の苗字(名字)11万種」のウェブサイトにおいて,「7.苗字順位」及び「順位0001~5,000」の見出しの下,「順位」,「苗字」及び「世帯数」の欄に,それぞれ「772」,「目黒」及び「6186」の記載がある。(http://www2s.biglobe.ne.jp/~suzakihp/index40.html) 

別掲2(目黒製作所が使用した商標)

別掲3(「MEGUROK3」に使用されるエンブレム)(行政事件訴訟法第46条に基づく教示)

この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

(この書面において著作物の複製をしている場合のご注意)

特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。

〔審決分類〕T18.13-Z(W12)14

17

272

審判長

特許庁審判官 榎本 政実 9872

特許庁審判官 荻野 瑞樹 9753

特許庁審判官 豊田 純一 8742

「MEGURO」等の商標登録に関する審判

昭和40年の当時、「メグロK3」がホワイトペーパーに終わらず市販化されていたら、現在のWシリーズはどのようになっていたのか、と夢想するのも面白い。



K2の650cc化については、450ccながら高性能であったホンダCB450の存在や、白バイへの納入そして海外進出など様々な背景があったことが想定される。