1973年2月にはW3が登場する。

カワサキ車初のフロントWディスクにZ1などと共通する部品の装備など、それまでどこかまだイギリス車の香りが残るW1SAからは大幅なモデルチェンジとなった。

W3の販売台数は4,330台と、W1SAと比べると販売台数はそう多くない。

カワサキからはマッハに次ぐ新たなフラグシップマシンとして900スーパー4(Z1)、国内向けには750RS(Z2)がデビューしており、いよいよダブワンは古い乗り物になってしまっていた。

W1SAの後継機であるため「なぜW2ではなくW3なのか」という疑問もあろうかと思うが、輸出仕様でW2はW1SAよりも前に存在している。

そんなWシリーズの最終モデルとして登場したW3について解説する。

延命策の延命策として1973年に登場したカワサキ650RS・W3

W1SAの登場は延命策としての側面があったということは前の章で触れた通りであるが、W3の設計・開発についてもエンジニアたちは気乗りしないものだったと言われている。

その背景については「国内でZ2がどこまで売れるか見当がつかなかったから」というものがある。

つまり、もしZのセールスが国内で振るわなかった場合の保険としてW1SAの改良型となるW3を販売していた。

よって、名称も750RS・Z2にならう650RS(RSはロードスターの意)というものが冠されている。つまり、W系であるためZより先輩であったがZの弟的な扱いの車だった。

W1SAからの変更点〜W3ではZと共通の豪華装備を搭載

〈足周り〉W3ではカワサキ車初となるWディスクが採用

W3のエンジンやフレームはW1Sから基本設計を共通としているが、装備にはさらなる変更が加えられている。

大きな部分ではフロントブレーキがディスク化された。ローターとキャリパーが2点も装備されていた。余談だが当時はこの足回りをZ系に移植するユーザーも多かったという(Z1、Z2はシングルディスク)。

英国車の愛好家からは喜ばれなかった仕様変更となったとも言われており、またカワサキ関係者の話によれば「Wの名にちなんでダブルディスクの仕様となった」などということも聞く。

また、W1SAでは34mmだったフロントフォーク径も36mmに改良が加えられ、スプリングの搭載方法も変更された。フォークのアウターチューブにはリフレクターがつく。

足周りの変更にともないフロントフェンダーも変更されている。

リアサスペンションはそれまでのカバータイプではなくリフレクターが配置されたZと共通タイプのものになる。カヤバ製の320mmで、サスペンションの後ろにはヘルメットホルダーが装備。

車体の重量も増加となり、W1SAの199kgから215kgとW3では重くなった。

W3のエンジンに関する変更点

W3のマフラー

W1SA後期型と同様シリンダーヘッドは無鉛ガソリン仕様(フィン9枚)となり、排気系も左右が連結されたエキゾーストパイプに「ダイコンマフラー」が装備され、消音効果がいくぶん高められている。

しかし往年の「ダブワンサウンド」を求めるユーザーからは不評であり、多くのW3がW1SA前期型までのタイプのマフラー・エキゾーストパイプに取り替えている。

ちなみに、W3のフランジはW1SAとは違うものになっており、中に割りカラーが入る仕様になった。

W3のキャブレターではティクラーが削除

キャブレターはVM28型を引き続き採用しているが、W1SAの物とは異なりティクラーがない汎用タイプになっている。またこれに伴いチョークの機構も変更となっており、W1SAではチョークレバーがハンドルバーに装備されていたものがW3ではスイッチボックスの横に移動している。

余談だがキャブレターのバンジョーボルトは必ず慎重に締めること。キャブボディ側のネジ山がダメになりやすい。

そのため締め込み時にはトルクをかけすぎないよう注意する必要がある。

W1SA後期型とW3では同じエンジンが使われているが、W3最終型のエンジン番号はW1E7249。ちなみにW3最終のフレーム番号はW3F04320 。

W3のエクステリア
シートがスプリング式からスポンジ製に変更

シートにも変更が入り、W1SAまではクッションがスプリング式だったシートがスポンジ製となる。

シート自体の形状も変更され、W1SAではタックロールだった表皮にも手が加えられた。

サイドカバーのエンブレムが「ROADSTER650」に変更

サイドカバー(オイルタンク)には「ROADSTER65」と記されたものがあしらわれ、W1SAでは黒い塗装だったものがガソリンタンクのベースカラーとマッチするものになっている。

ガソリンタンクグラフィック

ガソリンタンクの形状はW1SAから変わりないが、W3ではグラフィックが変更されている。細かい部分ではあるがタンクのエンブレムもW1SAの黒文字とは異なり、白文字で「KAWASAKI」と記されるものになった。

W3前期型と中後期型では塗装のパターンが変わっている。

なお、W3のガソリンタンクのデザイン担当はZも手がけた多田憲正氏によるもの。

650RS・W3のその他装備

豪華装備はこれだけでなく、これまたカワサキ車初となるハザードランプも搭載され、スイッチボックスをはじめスピードメーター・タコメーターなどもZ系と共通的な部品が使われた。

スピードメーターは時速200km、タコメーターは7500回転からレッドゾーン。ちなみに、W3のタコメーター内にはヘッドライト・テールライトが断線した際の警告灯が配置される。

W1SAではメーター内にニュートラル、ウインカーなど各種ランプが配置されていたが、W3ではインジケータがメーターから分離している。

ウインカーレンズはW1SAと同様の物が採用されているが、ウインカーステーは延長された。

また、テールランプのレンズは形状に変更こそないもののリフレクターが1枚のものになっている(W1SAでは2枚)。

グラブバーの形状も変更され、リアウインカーの装着位置も変わっている。

650RS(W3)前期型と後期型の違い

W3の前期と後期の大きな違いのひとつがガソリンタンクのグラフィック。

前期型ではいわゆる「火の玉カラー」的な配色が施されたが、中期から後期型ではそれも変更が入った。

W3のタンクのデザインは多田憲正氏が担当した。

また、前期後期の違いはリフレクターにもあり。前期型はフロントフォーク・リアサスペンションともにオレンジのものがついているが、後期型になるとリアサスペンションに赤いリフレクターが装備される。

また、W3の前期型にはW1SAと同様、ステアリングダンパーのノブがあるが、後期型では無くなっている。

「彼のオートバイ、彼女の島」に登場したW3

W3といえば片岡義男の小説「彼のオートバイ、彼女の島」の主人公の愛車として登場する。

後に大林宣彦が監督し映画化された。俳優は竹内力、原田貴和子、三浦友和などが演じた。

タイトルからも分かるよう、W3も主人公と同じように重要な役者として登場している。

余談だが小説と映画ではW3の車体描写に違いがある。また、小説もハードカバー版と文庫版でタンクのカラーリングに違いがある。

なんとなく、映画から濃紺のイメージが強い。

ちなみに映画で主人公の橋本功(コオ)が駆るW3のサイドカバーは青を基調としているが、カワサキの純正にその設定はなく、サイドカバーは黒のみ。

小説、映画ともにW3のかっこよさ(と一言で片付けられないくらいの魅力がある)が感じられる作品。

ジーパンにヘインズの白いTシャツ、W3はそんな格好がよく似合う。

W3に関する当時の評価・インプレッション

発売当時の雑誌を読むと、W3は決して高く評価されているとはいえない。

むしろ辛口なコメントが目立つ。

具体的には〜〜

など、W1SAでネガティブだった部分が改善されないまま、豪華装備だけをあしらったというイメージを持たれた。

また、英国車好きやエンスージヤストだけでなく、一般のライダーからも歓迎されたW1SAの評価とは異なるイメージだ。

無理もないと感じるのは、「W1がもう大型車の代名詞ではなくなった」こともあるだろう。

K2、W1が登場した60年代の当時、陸王などのメーカーは一線を退いていた。そのため、国内の新型車ではW1意外に大型車の影は無かった。

しかし70年代に入ると大型二輪車の市場は競合ホンダのCB750だけでなく、カワサキ社内でもZ1、Z2があった。

とはいえW3のデザインは素晴らしい。

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