
W1SはW1の改良型として登場。「ダブワンエス」「エス」などと略されることも多いが、Sはスペシャルの意味(写真は後期型)。
1968年2月、W2SSの国内向け市販車としてW1Sが発売された。
W1から排気量の変化こそないものの(624cc)、ツインキャブレター化やフロントホイールの大径化や各部のリファインを施されたモデルである。
W1からW1Sへの改良点
ツインキャブ化、53馬力にパワーアップしたW1Sのエンジン
W1からW1Sの変更点の大きなものはツインキャブ化などによるパワーアップ。
それまでVM31をひとつだけ装備していたが、W1SからはVM28が2連装され、小変更などあるものの650RS(W3)まで続く装備となる。
キャブレターの変更によりエアクリーナーの搭載方法も変更となる。
W1まではシート下に収まっていたが、W1Sからはキャブ後方にパンケーキ型のエアクリーナーが着く。
余談だがこのエアクリーナーは走行中によく落下する部品の一つ。
W1SではW1のシリンダーヘッドを改良。鋳型も改められた。インレットバルブ径も36φから38φに拡大、ツインキャブレター化により出力は53PS /7,000RPM。トルクは5.7kg/5,500RPMとなった。
W1の出力は47PSであったが、から6馬力程度向上している。トルクに関してはは0.3kgアップし力強くなった。
W1Sの走行性能
各部の改良によってW1Sの最高速は時速185km、ゼロヨン13.7秒という記録を残している。
「W1S走行性能・単車事業部 技術部(昭和43年)」によると、川崎航空テストコースにて実施された走行テストでの最高速度は時速170kmだったことが記録に残っている。
発進加速は50m地点3.52秒、100m地点5.45秒、200m地点8.55秒、400m地点13.7秒(最高値)。
▼W1Sの走行テスト条件は以下。
- テストライダー:
- 栗井実
- 風:北西の風向、風速5m/sec
- 測定方法:光電管測定
- 条件:川航テストコース800m。50m区間所用数秒からの算定
W1Sから「キャブトンマフラー」が採用
W1には通称「モナカマフラー」と呼ばれるメグロK2と同型のマフラーが装着されていた。K2とW1のマフラーは互換性もある。
W1Sからは単純共鳴型のいわゆる「キャブトンマフラー」に変更されている。「キャブトン」とはみづほ自動車による「CABTON(Come And Buy To Osaka Nakagawa)」つまり「大阪の中川商店に(オートバイを)買いに来てください」の意である。
またこのキャブトン号は戦前より中川商店で販売されており、それに装着されていたマフラーの形状から通称的に呼ばれることが多くなった。
ちまたでは「キャプトン」と誤用されることが多いが正確には「キャブトン」。カワサキではキャブトンと呼称せず「ユニークな形状のマフラー」とカタログ上では説明されている。
音量についてはW1のモナカマフラーよりW1Sのキャブトンマフラーの方が大きく勇まさしいと評されることが多く、「ダブワンサウンド」としてもてはやされているのは後者である。
なお、この排気音については「W1File(山海堂)」にて開発者の証言が掲載されており、音は狙ってマフラーを設計したことが記されている。
さらに細かい話をすれば、W1SSおよびW2SSはW1Sよりも筒の部分が短いタイプが装備されており、この型は消音器を持たない直管であった。
W1Sでは共鳴部分の容量が増加。バッフルチューブの消音器が内臓されるが、発売時は音量規制も緩い時代であり、現代では考えられない音量である。
なお、キャブトンマフラーを装着したW1Sは結果としてよりBSAに似た外観となってしまい、米国での評価も芳しくなかったといわれる。
ホイールの19インチ化など
W1は前後18インチホイールであったが、W1Sではフロントが19インチに大径化。それに伴いフェンダーの形状にも変更が加えられた。
W1ではタイアに深く覆い被さっていた前後フェンダーは、アメリカ市場で好まれないことなどを背景にW1Sでは短くされた。
フェンダーを短くしたことによって振動による振れ幅を小さくする狙いもあったようだ。
ちなみに、W1Sでも初期型では深いフェンダーが装備されている。
そのほかにも化粧直しがされており、メーターやシート、ウィンカーなども改良が施されW1Sは現代化が図られる。
また、W1Sは初期型や後期型と、単純にモデルを区別することが若干難しい。
その理由として最初期型には輸出車と同様の部品が使われつつ、W1の部品が流用されていたりと、なかなかに判別が難しいところである。
W1S初期型のみの装備

W1S初期型と後期型では前述のフェンダーのほか、シート、ウィンカーの形状も異なり、メーターに関してはW2TTと同形である。
初期型のW1Sは、言うならば「W1のフレームにW2SSのエンジンを搭載」したモデルといえる。
W1Sの初期型は160台程度しか生産されなかった希少なモデルであった。