本格的な輸出車として急遽開発されたカワサキW1
1965年のモーターショーでお披露目された試作車であるX650は、結果的に市販化されることはなかった。
翌年の1966年にW1が登場した。W1は欧米を強く意識したものとなっており、ガソリンタンクをはじめとしたエクステリアのあしらいや排気量の拡大などがなされている。
カワサキにとってW1は対欧米を意識した本格的なモデルとして位置付けられていたが、結果としてセールスは振るわなかった。
その背景にはBSA、トライアンフなど英国製マシンの存在が大きかったことが挙げられる。
カワサキは1960年に目黒製作所と業務提携を結び、その3年後1963年に吸収。そのあたりから2輪車の輸出も始まっている。
本格的な対米輸出車は「サムライ」のペットネームを与えられたA1(2ストローク250cc)があり、W1には「コマンダー(司令官の意味)」と名付けられた。
W1の開発期間が1年未満と短い理由には、A1の他の輸出モデルとしてラインナップするため商品化が急がれたといわれる。
そのため、多くの部品をW1はK2と共通化し、エンジンの「改造」で乗り切る作戦がとられた。
メグロK3プロジェクトが白紙となり登場したW1
K2の次期プロジェクトとしては「メグロK3型」が社内であがっていたが、結果的に商品化されることはなかった(それから数十年の時を経た2021年にK3は販売される)。
ちなみにK3では全く新しいエンジンの開発を目論んでいたといわれている。具体的にはOHVではなく、OHCを採用し、ミッションは別体ではなくユニット型とし、ハイカムシャフトも採り入れた高回転・高出力ものだった。
余談だが当時K3プロジェクトを推進していた大槻幸雄は、K3が白紙となって大きく落胆したとされている。
当時のカワサキでは4ストロークより2ストロークに注力していたことも背景にあるといわれるが、もしこのK3が製品化されていたら、その後に続くZ1などはどのような姿形をしていたのかと考えると面白い。
さて、アメリカでの現地調査を行うとベンチマークしていたBSAのA10やトライアンフT100と比較した際、K2のエンジン出力では対抗することが難しいことがわかった。
そのため、次期機種であるW1ではK2よりも馬力を向上させることが不可欠と判断され、K2のエンジンをチューニングする方向性が固まる。
よって、W1の624ccという排気量は「K2のシリンダーのボアをギリギリまで拡大した」ために生まれた。
K2からW1への変更点:エンジン
K2とW1のエンジンは外観上ほぼ変わらないように見えるが、実際には大小の差こそあれ様々なものがある。ここではそれについて取り上げていく。
まずは排気量で、K2が500CC(496CC)であったことに対し、W1では650CC(624CC)となっている。
エンジン型式名はK2の「KB271」からW1では「UKB271」に変わった。
エンジンの基本的なメカニズムはほぼ同じものが受け継がれているが、K2ではボア66mm×72.6mmだったものが、W1ではボアを8mm拡大、車体部品も新調された。
ストロークはK2と同寸としたままボア径のみを大きくしたため、結果的にW1のエンジンはオーバースクエアとなり、K2とは性格も異なるマシンとなっている。
W1とK2のエンジンは共通部品が328点あり、生い立ちとしてはK2の改良型といえよう。
ただし、クランクシャフトには大きく手が加えられており、K型では一体鍛造だったものがW1では3点組み立て型に改められている。
また、コネクティングロッドの材質も変更された。K型では軽量なジュラルミン鍛造のものが使われていたが、W1ではニードルローラーベアリングとなり、実質的なコストダウンとなった。
排気量の拡大によって得られた結果
エンジンの改良によりW1では最大出力47PS/6,500rpm、最大トルクは5.4kg /5,500rpmという力を手に入れた(K2より11ps、1.2kg向上)。
搭載されるキャブレターはK2の27φ(アマル376-27・K2初期型)もしくはVM28(K2後期型)だったものが、W1では31φ(VM31)に変更された。
ミッションはK2のロータリー式がW1ではリターン式に改められ、2速から3速がよりハイギヤードな変速比になっている。
これによりW1の最高速度は時速180km、ゼロヨン13.8秒の性能。K2よりも速く・力強いマシンとなった。
K2からW1への進化、高出力化でとられた対策
K2からW1へ、ボア拡大を中心とした出力向上によって、エンジンの高出力化への対策もとられた。
主な対策は以下の通りである。
・オイルポンプの改良:オイル吐出量をK2の毎秒4.5ℓから、W1では6.2ℓへと増強している。
・シリンダーヘッドボルト:K2の28φからW1にて32φへ改良。
・インレットバルブ径:K2で33.5φだったものをW1では36φへ変更。バルブスプリングも強化。
・クラッチ:容量は14.3kgmから20.06kgmへ、スプリング強度もK2の96.5kgからW1では135kgへと強化。
・プライマリーチェーンスプロケット:K2で27枚だったものがW1では23枚へ。
W1のエクステリア
「カワサキのW1」というと、多くの人がイメージするのはW1Sあたりかと思われる。
2車のエクステリアは概ね似ているものの細部はかなり異なる。また、W1は細かな変更がたびたび行われており、W1前期と後期を見比べても違う部分が多い。
W1Sにモデルチェンジする前のW1は、フロントホイールが18インチ、キャブレターは1基、マフラーは「キャブトン型」ではなくいわゆるモナカ型、といったことが挙げられる。
メグロK型から変わらないW1のフレーム
W1のフレームはメグロK2と同様のものが使用され、W3まで変わらない。ただしブラケットの溶接箇所など細かい部分で手が加えられている。
設計は糠谷省三(1950年に目黒製作所入社)であり、K型のフレームは電気溶接によって製造されている。
K型のフレームの形状はダブルクレードル型となっており、ヘッドからシートレール後部までのガセットパイプを連結させ、左右のダウンチューブからヘッドを包んでおり、強度が高められている。
なお、フレームには後部まで28φ*2.5tの鋼管が使われるという贅沢な仕様であったが、後にW1として624cc化され、大幅に増えた振動を許容することとなり、結果的に吉と出る設計となった。
W1として生まれ変わる際にはイグニッションスイッチ(キーシリンダー)を取り付けるためのブラケットが追加されたほか、スイングアームピボット部のガセット変更などが行われた。
カワサキA1と共通化が図られたW1のガソリンタンク
W1のガソリンタンクは対米を強く意識したものとなっており、カラーリングはキャンディトーンを基調とした赤いメッキタンク。しかし、これが結果として範としていたBSAのA10と似通ってしまうことになった。
なお、W1のタンクはカワサキA1(写真)と同一の金型が使用されてされ、絞りのみがA1とW1で異なる。
タンクの左右にはメグロの七宝焼エンブレムではなく、カワサキのリバーマークが配置され、ニーグリップ部にはラバーがあしらわれている。
タンクのカラーリングについては現地調査を行ったうえで決定され、キャンディトーンが米国で流行していることを掴んでいた。
また、赤色であれば7割が満足するという結果を下地に、あのタンクデザインが決定する。
キャンディ塗装の技術が未熟だった国内では、一升瓶の中に貝殻やガラスビーズを入れて砕き、それを吹き付けることから始まったとされている。
そして、当時カワサキのデザインルームにいた朝永敬助によれば、「この頃から二輪車のデザインは実用から趣味へ急激に変化した」と語られる(出典:山海堂「W1 FILE)。
カワサキW1の諸元表
型式 | W1 |
仕向け・仕様 | 国内向けモデル |
全長 (mm) | 2135 |
全幅 (mm) | 865 |
全高 (mm) | 1090 |
ホイールベース (mm) | 1420 |
最低地上高(mm) | 130 |
車両重量 (kg) | 218 |
最小回転半径(m) | 2.3 |
乗車定員(名) | 2 |
原動機型式 | W1E |
原動機種類 | 4ストローク |
気筒数 | 2 |
シリンダ配列 | 並列(直列) |
冷却方式 | 空冷 |
排気量 (cc) | 624 |
カム・バルブ駆動方式 | OHV |
内径(シリンダーボア)(mm) | 74 |
行程(ピストンストローク)(mm) | 72.8 |
圧縮比(:1) | 8.7 |
最高出力(PS) | 45 |
最高出力回転数(rpm) | 6500 |
最大トルク(kgf・m) | 5.2 |
最大トルク回転数(rpm) | 5500 |
燃料供給方式 | キャブレター |
燃料供給装置形式 | VN31 |
燃料タンク容量 (L) | 15 |
エンジン始動方式 | キックスターター式 |
エンジン潤滑方式 | ドライサンプ式 |
エンジンオイル容量※全容量 (L) | 3.0 |
クラッチ形式 | 湿式・多板 |
変速機形式 | リターン式・4段変速 |
変速機・操作方式 | フットシフト |
1次減速比 | 2.280 |
2次減速比 | 2.160 |
変速比 | 1速 2.539/2速 1.710/3速 1.220/4速 1.000 |
動力伝達方式 | チェーン |
キャスター角 | 61°00′ |
トレール量 (mm) | 100 |
ブレーキ形式(前) | 機械式リーディングトレーリング |
ブレーキ形式(後) | 機械式リーディングトレーリング |
懸架方式(前) | テレスコピックフォーク |
懸架方式(後) | スイングアーム式 |
タイヤ(前) | 3.25-18 |
タイヤ(前)構造名 | バイアス |
タイヤ(前)プライレーティング | 4PR |
タイヤ(後) | 3.50-18 |
タイヤ(後)構造名 | バイアス |
タイヤ(後)プライレーティング | 4PR |
ヘッドライト定格(Hi) | 35W/25W |
テールライト定格(制動/尾灯) | 25W/8W |