餅は餅屋、バイクはバイク屋

帰宅中……である。

時刻は午後8時半になろうかという時。

社会ではもっと遅くまで働いている人がいる。自分も過去はそうだった。

だから甘えたことは言えない。

けど少し疲れているというのも事実。

でもまあそんなことはどうでもいいか。

先週から妻と息子が田舎に帰っている。

倅にとってははじめての帰郷というわけだ。

僕は親も先祖も東京の人間だから、帰郷という感覚を知らない。

実家も自転車で15分ほどのところにある。

まあそれで、少しの寂しさを感じているというわけだ。

休みの日もすることがない。

今までは子供を公園に連れて行く、イオンモールに連れて行く、といった具合で週末を過ごしていた。

「自分の時間が欲しい」と考えながら、いざ一人でいると何も思い浮かばないというのは寂しい。

W1SAの車検も切れた。

口座の中身を見ると、車検を通すことも少しためらう。

車検を通すだけなら安価だが、これを機にくたびれたところも直してしまいたい。

例えば、滑り気味のクラッチに残量が少ないブレーキシュー、頼りないイグニッションコイル……。

全て自分でやればいい。

これまでならそうしていた。

ツナギを着て工具箱をひっくり返し、腰が痛くなるまで作業した。

でも今はやらない。

その理由は何か? 時間がないからではなくて、「プロにやってもらいたいから」なんだと思う。

過去、オートバイをいじったり直したりして休日を過ごしていた。

母には呆れられ、父からは微笑まれた。

けれど、結局高い授業料を支払うことになった思い出もある。

「自分でやってみる」あの時はそれにこだわっていたような気もする。

サービスマニュアルを読み、パーツリストで構造を把握して、目を瞑って何度も作業をインプットした。

けれどやはり失敗する。

ネジがナメるくらいなら可愛いもんで、直してるんだか壊しているんだか分からない。

仕方なく近所のバイク屋に持って行って店主(爺さん)に頼る。

爺さんは爺さんだから、200kgを超える車体を動かすのに難儀している。だから僕が整備を手伝う。

まあそんな風にしてW1SAはしっかり直る。

ついでにとキャブにポイント、ズレにズレたものを調整してくれる。

爺さんは「俺は新しいのはよう分からん。ダブルワンくらいなら訳ない」みたいなことを毎回言った。

そのあたりから、僕は本職への信頼や尊敬を抱くようになった。

逆にいえばそれまでは「自分のバイクなら自分で直せなければならない」くらいに思っていた。

僕も気づけば35歳になっていて、家族がいて、だからやっぱり整備不良で事故にでも遭ったら……と考えるようになっていた。

W1なんていう生まれながらの故障車を転がしているのに、変な話だけれども。

そのバイク屋はすでに閉業しているから、違うところでお世話になっている。

若い店主だけれども、腕も評判も良いみたい。

「餅は餅屋」なんていう言葉があって、まさにそうだなと思う一方で、僕は餅屋に成れているのだろうか、とも不安になる。

そんな仕事帰り。

Follow me!